2017年4月27日木曜日

定額の残業代制度について

残業代トラブルにならないための定額残業代制度の注意点




Q.
昨今、時間外労働や残業代不払いに関する報道が多くなされていますが、
当社で は、残業代に相当する定額の手当を支払うことで対応しています。
このような対 応に問題はないでしょうか。



A.
1.定額残業代制度の問題点 ご質問の通り、昨年来、時間外労働や残業代未払いの問題が世間の注目を集めています。

また、労働基準監督署による調査・取り締まりが強化されていることもあり、企業 としても、36 協定の締結、労働時間管理、残業代支払いなどに遺漏のない対応が求め られています。


 そのような中で、残業代の支払いについて、(名称は様々ですが)残業代に相当する 手当として毎月一定額を支払ったり、

残業代相当額を基本給に組み込んだりして対応す る企業も多くみられます(なお、定額の残業代を超える残業代が発生した場合に、会社 はその超過部分を支払わなければならないことには注意が必要です)。

 もっとも、このような定額残業代の支払いはあらゆる場合に有効となるのではなく、
 一定の条件を満たさない場合は無効になるとされています。


具体的には、裁判例におい て、
①明確区分性の要件(基本給等と明確に区分されていること)、

②対価要件(残業 代の趣旨で支払われていること)を満たす必要があるとされてきましたが、最高裁判決 (平成 24 年 3 月 8 日判決 テックジャパン事件)の中で厚生労働省出身の裁判官が、

 ③定額残業代を超える残業があった場合に差額の支払いをする旨の合意があることも 要件とすべきとの補足意見を述べて以降、有効性について厳格に判断する裁判例が増え ています。

 そして、無効とされた場合には、企業は残業代として支払いをしたにもかかわらず、
 残業代の支払いとして認められず(通常の給料の支払いにすぎないとされ) 、
いわば「二 重払い」のリスクを抱えることになります。




2.実務上の対策 では、定額残業代の支払いとして無効とされないためには、
どのような対策が考えら れるでしょうか。

前述の最高裁裁判官の意見やその後の裁判例に対しては、
これに反対する見解も多く 表明されていますが、実務的には、
このような意見や裁判例を踏まえた「無難な」対応 を考えざるを得ません。

 具体的には、定額残業代を基本給に組み込むのではなく、
別個独立した手当として位 置付けるとともに、
名称も定額残業代の趣旨で支払われていることが明確となるような もの(例えば「超過勤務手当」や「定額残業手当」)とするのがいいでしょう。

また、定額残業代について、就業規則で明示する必要があります。

具体的には、「○ ○時間分を定額残業代として支払う」「金○万円を定額残業代として支払う」などとし たうえで、
さらに、「なお、定額残業部分を超えた残業が認められる場合、
会社はその 差額を清算のうえ支給する」と差額支払いについて明示しておくのがいいでしょう。

さ らに、定額残業代に含まれる範囲、具体的には休日出勤や深夜労働の手当が含まれるの か否かも明らかにしておくといいでしょう。
 そして、定額残業代の金額設定ですが、就業規則に具体的な金額を規定する場合でも、
 アバウトに金額を決定するのではなく、「○○時間分の残業代に相当する額」というよ うに
一定の根拠を持った形で算出・決定しておくべきです。
もちろん、制度内容について、従業員に説明をして理解させておくことも重要です。




3.最後に このように、定額残業代制度を有効に機能させるためには、
就業規則や労務管理体制 の整備が必須ですので、
その導入や見直しに当たっては、弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談されることを
お勧めします。