2017年7月25日火曜日

執行役員の法的位置づけについて



                      執行役員制度について解説します。

1.執行役員の法的位置づけ

(1)執行役員制度とは

執行役員制度は、平成9年(1997年)にソニーがわが国ではじめて導入した制度といわれていますが、今日では大企業のみならず中堅中小企業においても導入が進んで います。

当時のわが国の大企業は、取締役が数十名もいる企業も多く見られ、取締役会の肥大化と意思決定の遅さが問題になっていました。そこで、業務の意思決定と執行を分離し、取締役会の機動性の回復と意思決定の迅速化を図るために、執行役員制度が大企業を中心に導入され、次いで中堅中小企業にも普及していったという経緯にありま す。

執行役員制度の導入により、大企業の場合には30名~40名程度もいた取締役は10 名程度に大幅に減少するとともに、事業分野や機能別に業務執行の権限を委譲された 執行役員が2030名程度任命され、スリムになった取締役会の迅速な意思決定のもとに、それぞれの事業の業務執行がなされる体制となりました。

 

(2)執行役員の会社法上の位置づけ

執行役員は、会社法上の役員ではないため、その法的位置づけが問題となります    が、一般には「重要な使用人」に該当し、取締役会設置会社においては、その選任お よび解任については取締役会の決議が必要になると考えられています(会社法362

43号)。

 

(3)執行役員と会社の間の法的関係と執行役員の労働者性

執行役員が「使用人」であるとすれば、執行役員と会社の間の法的関係は、最も典 型的には雇用契約関係であると解することになりますが、実際には、取締役の場合に 準じ、会社を委任者、執行役員を受任者とする委任契約関係と構成するケースも見ら れます。実際上は、雇用型の執行役員は労働基準法上の労働者にあたる一方で、委任 型の執行役員は労働基準法上の労働者にはあたらないものとして区別して運用する実 務が定着しています。

 

(4)執行役員の労働者性の有無がなぜ問題になるのか(問題の所在)

そもそも、「執行役員が労働者かどうか」が、なぜ問題となるのでしょうか。それ は、労働者性の有無により、事故や契約の解除などの問題が発生した場合の法律関係 や救済の内容が大きく異なるからです。

たとえば、執行役員が業務上の災害に遭遇したり、過重労働による精神疾患に羅患
した場合、執行役員が労働基準法上の労働者に該当しなければ、

労災保険から給付を  受ける可能性はなく、また、会社も労働基準法上の補償責任(労働基準法75条以下)  を負いません。

他方で、執行役員が労働基準法上の労働者に該当する場合には、労災  保険の給付が受けられ、また、労働基準法の適用もあることから、会社は補償責任を  免れません。


また、たとえば、執行役員が解任され、会社との間の契約関係が終了する場合、執行役員に労働者性が認められず、会社との法的関係が委任契約関係にある場合には契 約当事者は契約を「いつでも解除できる」(民法6511項)ことから、解雇権濫用      法理(労働契約法16条)の適用は受けません。

しかしながら、執行役員が労働基準法  上の労働者に該当すれば、解任により会社との契約関係を終了させることは「解雇」  にほかならず、したがって、解雇権濫用法理の適用を受け、客観的に合理的な理由が なく、社会通念上、相当と認められない場合には、解任=解雇は無効となります。

さらに、執行役員が労働基準法上の労働者に該当する場合は、執行役員の報酬は
「賃金」に該当することから、賃金支払の4原則(通貨払の原則、直接払の原則、全 額払の原則、毎月1回以上一定期日払の原則)の適用を受けますが、執行役員が労働 基準法上の労働者に該当しない場合には、労働基準法の適用もなく、賃金支払の4原 則の適用もありません。