2017年5月17日水曜日

中小企業の賞与の決め方


中小企業の賞与の決め方
 
 
 
1 変わり始めた賞与の在り方

 賞与は、業績の良いときは多く、悪いときは少なく社員に支給するというのが基本的
な考え方です。
しかし、深刻な人手不足の現在、社員の離職防止や新規採用を有利に進
めるために賞与の支給額を引き上げる企業が増えてきました。

 注意が必要なのは、無計画に賞与の支給額を上げると、総額人件費が重くなることで
す。「同一労働同一賃金ガイドライン案」(2 0 1 6 年1 2 月公表)も見逃せません。
正社員と同じように活躍している非正規社員にも賞与を支給すべき旨が定められたからです。
 
業績に連動して支給されることが多い賞与が、今では労働条件の底上げを狙って支給
されるようになってきています。
企業は、いま一度自社における賞与制度を確認し、総
額人件費をコントロールしながら、適切な支給額を決定する必要があります。



2 賞与の支給方法の選択

1 )主な賞与の支給方法
 主な賞与の支給方法には、次のようなものがあります。
・基本給連動方式:基本給に支給月数などをかけて算出する
・業績連動方式:経常利益などの業績指標を基に賞与原資を決め、社員に配分する
・定額方式:一律、あるいは勤続年数などに応じて定額を支給する
・どんぶり勘定:経営者の感覚や好き嫌いで決める


 厚生労働省「平成2 8 年賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、
2 0 1 6 年の3 月から8 月にかけて賞与を支給した、
または支給する予定で支給額を決定した中小企業(社員数1 0 0 ~2 9 9 人)のうち、
5 9 . 3 %は業績連動方式を採用しています。

2 )これからの賞与の課題
 賞与の支給方法はさまざまですが、業績に関係なく支給される固定費的な賞与と、業
績によって支給金額が変わる変動費的な賞与に大別されます。
 
1 9 9 0 年代以前の賞与は、社員の生活費を補填するための意味合いが強く、基本給連動
方式をベースとした固定費的なものが主流でした。しかし、1 9 9 0 年代以降は、成果主義
の導入も進み、業績連動方式などの変動費的な賞与が増えました。

 変動費的な賞与を取り入れた場合、企業は総額人件費を調整しやすくなります。しか
し、社員にとっては支給額にばらつきが生じる変動費的な賞与は不安なものです。
 
冒頭で紹介した通り、これからの賞与には労働条件の底上げという機能が求められる
でしょう。
これを実現するためには、固定費的な賞与を最低保障額として組み入れるな
どの工夫が必要です。そこで以降では、業績連動方式をベースにしつつ、
基本給連動方式の要素も取り入れた賞与制度について考えていきます。




3 業績連動方式とは?
 業績連動方式とは、賞与原資の一部または全部を、企業全体または部門の業績と連動
させる仕組みです。

売上高や経常利益などの業績指標を基準にして、「経常利益×○%」などの形で賞与原資を決定するのが特徴です。
 
また、日本経済団体連合会・東京経営者協会「2 0 1 6 年夏季・冬季賞与・一時金調査結
果」によると、業績連動方式を取り入れている社員数5 0 0 人未満の企業のうち、6 1 . 8 %は
経常利益を、4 1 . 2 %は営業利益を業績指標としています(複数回答)。

 業績連動方式のメリットは次の通りです。
・成果主義的な仕組みであるため、社員のインセンティブになる
・業績が賞与支給額の基準になるため、経営に対する社員の参加意識が高まる
・業績に応じた賞与原資の変動費化が可能になる
・毎年社員側(労働組合)と賞与について団体交渉する必要がなくなる
 また、デメリットは次の通りです。
・賞与支給額の変動幅が大きくなりがちなため、社員が不安を覚える
・社員が短期的な業績指標ばかりを重視するようになる
・賞与原資が自動的に決まるため、ある意味で硬直的になる



4 賞与原資を決める業績指標
1 )売上高基準
 売上高基準で利用する業績指標は、「売上高、生産高、受注高」などとなります。売
上高基準のメリットには、「社員に分かりやすく、インセンティブになる」「目標達成
の進捗が把握しやすい」などがあります。
また、デメリットには「売上高や生産高を重視するあまり、
コスト面に対する社員の意識が散漫になる可能性がある」などがあります。

2 )利益基準
 利益基準で利用する業績指標は、「売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益」
などとなります。
利益基準のメリットには、「社員に分かりやすく、インセンティブに
なる」「コスト面に対する社員の意識を喚起することができる」などがあります。

「経常利益×○%」など、業績指
標を基準にして賞与原資を決める
賞与原資の範囲内で、各社員の勤
務成績を基に個別支給額を決める
(出所:日本情報マート作成)
(図表)【業績連動方式の全体像】
賞与原資を決める個別支給額を決める



 また、デメリットには「社員の努力で原価削減を達成したものの、社員の努力の及ば
ないその他の支出が大幅に増加して利益が減少することがある」などがあります。
3 )業績指標を選択するポイント
 その他の基準としては、「営業キャッシュ・フロー、R O A 、R O E 」などを重視する場合
もありますが、この辺りは企業の規模や業種、ライフステージに応じて決定するとよい
でしょう。

 基準にかかわらず大切なことは、「社員にとっての魅力」と「企業の経営」を両立さ
せることです。そのためには、「社員にとって分かりやすい業績指標であること」「経
営戦略上、企業が重要視している業績指標であること」がポイントになります。

 業績連動方式は、業績が向上すればするほど賞与原資が大きくなるため社員が有利に
なりますが、社員にとって分かりにくい業績指標を選択してしまうと、制度の魅力がう
まく伝わりません。

 また、基準は企業が経営戦略上で重要視しているものでなければ意味がありません。
例えば、売り上げよりも利益を重視するのであれば、利益基準を採用するというのが基
本的な考え方です。



4 )賞与原資の算定
 賞与原資の算定方法は定率法と定額法に大別されます。定率法とは、定率で賞与原資
を算定する方法であり、「半期の経常利益×○%」「前年度の経常利益×○%(うち○
%を夏季賞与、○%を年末賞与とする)」などとします。

 定額法とは、業績指標の区分に応じ、定額で賞与原資を決定する方法であり、「経常
利益が○千万~○千万円の場合、基本給の総額×○カ月分」「経常利益の目標達成率が
○~○%の場合、基本給の総額×○カ月分」などとします。

5 )賞与原資の最低保障額

 繰り返しになりますが、業績連動方式は業績によって賞与原資が変動するため、社員
が不安に感じることがあります。この不安を解消するために、賞与原資に最低保障額を
組み入れるのも一つの方法です。
 定率法の場合は、基本給連動方式をベースにして「半期の経常利益×○%+最低保障
額(基本給の総額×○カ月分)」「前年度の経常利益×○%+最低保障額(基本給の総
額×○カ月分)」などとします。

 定額法の場合は、「経常利益が○千万円以下の場合、基本給の総額×○カ月分の最低
保障額」「経常利益の目標達成率が○%以下の場合、基本給の総額×○カ月分の最低保
障額」などとします。



5 個別支給額を決める
1 )支給対象者を決める
 賞与原資が決定した後は、支給対象者を明らかにしましょう。一般的には、「賞与算
定期間のうち、○分の○以上出勤した者」といったように支給対象者を限定します。
また、「非正規社員には支給しない」であるとか、「勤続期間が○カ月以上ないと支給し
ない」といったように、雇用契約の形態や勤続年数によって賞与支給の有無を区別して
いる企業が多くあります。

 ただし、こうしたやり方は同一労働同一賃金の考え方に反します。また、社員の離職
防止や新規採用を有利に進めるという企業の目的も達成しにくくなってしまうでしょう。
2 )支給対象者ごとの配分を決める 支給対象者が決定した後は、
支給対象者ごとの配分を決めます。配分の方法は各社各様ですが、
一般的には次のような要素を考慮します。


・部門業績(所属部門の経常利益が○万円以上なら配分率○%など)
・人事考課(A 評価なら配分率○%など)
・資格等級(○級なら配分率○%など)
・出勤率(週○時間勤務なら配分率○%など)
 例えば、賞与原資を「半期の経常利益×○%」で算定する場合、支給対象者の個別支
給額は「半期の経常利益×○%×配分率」で算定できます。


3 )個別支給額の最低保障額
 賞与原資に最低保障額を設けていれば、その額を基準にして個別支給額にも最低保障
額を設定することができます。
 例えば、賞与原資を「半期の経常利益×○%+最低保障額(基本給の総額×○カ月
分)」で算定する場合、「半期の経常利益×○%×配分率+最低保障額(基本給×○カ
月分)」という形で個別支給額にも最低保障額を設定することができます。