2017年6月7日水曜日

無許可残業に残業代を払う??

「無許可残業」に残業代を支払うべきか


Q.当社では、就業規則等により「残業許可願」の提出を義務付け、いわゆる「無許
可残業」は認めず、事前許可のない残業には残業代を支払っていません。また、
タイムカードの機械は未設置です。
この場合、労働時間管理上で何か問題はあるのでしょうか?


使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を
確認し、これを記録する必要があります。
また、その原則的な方法としては、使用者が自ら現認することによるか、
またはタイムカード、IC カード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することとされています(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」平成29 年1月20 日)。

ですから、事前許可制による残業時間管理を形式的に行っているだけでは、
労働時間管理上も十分ではありません。類似事案で無許可残業が労働時間に認定され、
残業代の支払いを命じた裁判例がありますので、留意が必要です。


◆「無許可残業」を時間外労働と認定し、残業代の支払を命じた裁判例
○ゴムノイナキ事件(大阪高判平成17.12.1)
<概要>
同社社員は、1 年4 か月にわたり、午後10 時ないし翌朝午前4 時ころまでの平日の
所定労働時間外勤務や休日勤務に対する賃金が未払いであるとして、超過勤務手当及び
これと同額の付加金の支払いを請求しました。

<判決>
控訴審では、当該社員の所定労働時間外勤務が恒常化していたとはいえるが、当該社
員の主張の業務終了時刻は客観的に裏付けられず、帰宅時間を記した妻の記録によって
も退社時刻は確定できないとしました。
他方、会社がタイムカードによる出退勤管理をしていなかったことで当該社員を不利益に扱うべきではなく、総合的に判断してある程度概括的に時間外労働時間を推認するとして、
平日は午後9 時までの超過勤務を認定しました。

付加金については、会社が出退勤管理を怠り、相当数の超過勤務手当が未払い
のまま放置されて労基署の是正勧告を受けたことなどを考慮すると、支払いを命ずるの
が相当としました。


<会社の対応上の問題点>
本事案では、事前許可のない残業が労働時間と認定されなかった神代学園ミューズ音
楽院事件(東京高判平成17.3.30)と比較すると、主に以下の二点において、会社の対
応に問題がありました。


◆裁判例の示唆と実務対応
残業や休日勤務は事前の申し出・承認手続きを厳格に運用し、不要な残業や休日勤務
をさせないように管理を徹底していれば、無許可残業が労働時間になることは原則あり
ません。

しかし、残業許可願を提出せずに残業している社員がいることを知りながら、
これを黙認すると、直接的に残業を命令する「明示の指示」ではなく、暗黙に残業を命
令する「黙示の指示」により「使用者の指揮命令下にある」とされ、無許可残業が労働
時間に認定されてしまうため留意が必要です。

今年1 月、前出の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガ
イドライン」が厚生労働省より示されました。
それには、「自己申告した労働時間」と「実労働時間」との合致状況について必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすることや、「休憩」「自主的な研修」等であるため労働時間ではないと労働者が自己申告していても、実際には使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として取り扱わなければならないこと等が示されています。

今後、この新たなガイドラインに基づき、行政の監督指導が強化されると考えられま
すので、企業に求められる社員の労働時間管理は、長時間労働問題への対応といった「働
き方改革」のためにもその重要性が高まっています。